2016年7月30日土曜日

フードロスや水不足にまつわる大事な話

引き続き「CSVって何?」っちゅう話です。

繰り返しますが、CSVとは、
『企業がその本業を通じ、社会課題に貢献しながらしっかりと経済的利益も得て、社会価値と経済価値を共創する』ことであり『自社を差別化して収益を最大化するための、競争のための経営戦略』
のことです。

前回は、
『社会課題への貢献を掲げることが、企業活動の大義名分となり、顧客だけでなくNGO・NPOや社会起業家もひきつけ、そのことは企業側に様々なメリットを及ぼす』
という話をしました。

大義名分を掲げることには、企業にとって、他にもメリットがあります。
それは『ルールメイキングを主導できる、もしくは関与できる』ということです。ルールメイキングが、企業にとって最強の経営戦略である、ということは以前にも書きました。
http://social-value-consultant.blogspot.jp/2016/05/blog-post_29.html

社会課題には、得てしてルールの不在がつきものです。大義名分を掲げ、そのもとにNGO・NPOや社会起業家、さらには国際機関も結束すれば、そこにはルールメイキングの動きが起こります。具体的に、気候変動や人権といった枠組みの構築に続き、今は水不足やフードロス等の問題で、そうした動きが加速していると聞きます。こうした動きにいち早く関与すれば、それは企業にとって長期的な優位にもつながります。


フードロスでいえば、世界では現在年間約13億トンもの食品が廃棄されているそうです。この問題は、「資源枯渇」「経済損失」、そして「環境負荷」につながります。さらに、毎年生産される食料の1/3が失われる一方で、世界では未だに8億人近い人が飢えで苦しんでいます。













最近ニュース等でも報道されていましたが、フランスでは大型スーパーに対し、賞味期限切れの食品の廃棄を禁止する法律が制定されました。こうした食品は、ボランティア組織やチャリティー団体に寄付されたり、家畜の餌や農業用の堆肥として転用されることが義務づけられています。


また水不足でいえば、現在、世界で約7億人が水不足の状況で生活しており、不衛生な水しか得られないために年間約180万人の子どもが亡くなっているそうです。水不足は、農業、工業、生活用水、飲料水等、様々に影響を与えます。また、水源を理由とした紛争も世界各地で起きています。













「緑豊かな日本には関係のない話」と思いがちですが、大間違いです。日本は実は、水資源の輸入大国なのです。農作物や工業製品を大量に輸入している日本は、その生産に必要な水を間接的に消費しています。これを「仮想水」と言い、輸入国において、もしその農作物や工業製品を生産した場合にどの程度の水が必要か、を推定したものです。日本の仮想水輸入量は年間で約800億トン。世界最大の仮想水輸入国であり、これは国内での年間の水使用量とほぼ同じ量になります。日本人は、自分たちの生活のために想像以上に途上国の生活を破壊しているのです。


これらの分野で、今後まさにグローバルなルールメイキングが加速していくはずです。そうした際に、中小企業であれ、事業に受けるインパクトは相当大きくなるでしょう。

・普通に食材を廃棄することが許されなくなります。
・普通に海外で水資源を使うことが許されなくなります。

突然こうしたルールが出来たと知れば、もちろん企業は対応できません。しかし、こうしたルールメイキングに最初から関与していれば、いち早く対応し、事業の優位性を確保できます。ルールが変わる訳ですから、うまくすれば戦わずして勝てます。そこには、天と地の差が存在します。

一方で、もしグローバルなルールメインキングに本気で関与するなら10年は必要と考えておくべき、と以前に聞きました。日本の大企業のように3〜4年で担当者が変わるようでは、そもそも相手にもされません。大義名分を掲げ、覚悟を決めてルールメイキングにも係っていくのであれば、

・経営トップは、自身の任期中の数値業績のみに汲々とするのではなく、10年後、20年後のあるべき社会の姿をしっかりと考え、その実現にコミットしていく必要があります。
・人事部門は、従来のジェネラリストではなく、専門家をしっかりと養成することに注力し、そうした人間について短期の業績のみで評価をしない仕組みを作る必要があります。

そこまで出来れば、大義名分を掲げることにより、より大きな果実を得られます。













長くなりました。続きは次回。


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2016年7月23日土曜日

CSV(Creating Shared Value)って何なの?(その⑥)

「CSVって何?」っちゅう話の続きです。

しつこいですが、CSVとは、
『企業がその本業を通じ、社会課題に貢献しながらしっかりと経済的利益も得て、社会価値と経済価値を共創する』
ことであり、
『自社を差別化して収益を最大化するための、競争のための経営戦略』
のことです。

前回は、
『社会課題への貢献を掲げることが、企業活動の大義名分となり、顧客をひきつけるストーリーとなって、自社のファンをつくる』
という、CSVに取り組むうえでの企業側の最大のメリットについて整理しました。

さらに、この大義名分は、顧客以外もひきつけます。
例えば、NGO・NPOや社会起業家。


どうも日本企業は得てして、NGO・NPOなどと手を組むことに抵抗感を持ちがちです。しかし、組むことには、企業にとっても様々なメリットがあります。

① NGO・NPOなどは日々その社会課題と向き合い、現場で汗をかいています。従って、社会課題の実状や解決に向けた効果的なアプローチなど、企業側に不足している知見を与えてくれます。
② 資金面で問題を抱える彼らにとって、企業との協力は大変ありがたいもの。従って、企業側がお願いをしなくても、彼らのほうで積極的に協力関係をPRしてくれます。そしてそれは、確実に企業のファンを増やしてくれます。
③ NGO・NPOや社会起業家と企業のサラリーマンとでは、意識の持ち方も動き方も、全く違います。互いに学べる部分は多いはずです。そして企業にとっては、「課題を自らみつける」「自ら動く」「失敗を恐れない」「あきらめない」といった貴重なスタンスを自社の社員に学ばせることができます。
④ グローバルに活動する有力なNGO・NPOと協力すれば、自社の活動に対する国際的・社会的なお墨付きも得られます(もちろん企業側が真摯に取り組むことが前提です)。

等々。日本にも、素晴らしい志を持つNGO・NPOや社会起業家はたくさんいます。個人的には「地域創生」と「人権課題」に特に関心があるため、この分野で注目しているところを2つほど紹介します。


認定NPO法人「かものはしプロジェクト」
http://www.kamonohashi-project.net/

「かものはしプロジェクト」HPより













「かものはしプロジェクト」は、子どもがだまされて売られてしまう問題を解決するため、「子どもを買う人を逮捕する」「大人に仕事を、子どもに教育を」という2つの方面からの取り組みに、インドやカンボジアで尽力されています。


一般社団法人「エリア・イノベーション・アライアンス」
http://areaia.jp/

「経営からの地域再生・都市再生(木下斉)」HPより















代表理事の木下斉さんは、高校時代から商店街の活性化事業に取り組まれていた社会起業家です。こちらの法人は、「国内外の中心市街地及び農村漁村等の地域活性化に取り組む団体との連携した、地域の自立経営モデルの構築」を事業目的とされ、活動されています。


多くの社会起業家と接してきた方から、以前に伺った話です。
「社会起業家の活動継続率は、(その方が知る限りでは)実は90%以上。一般のベンチャー企業と比べると、異常なほどに高い。彼らは、大義こそ変えないが、手段は平気でガラッと変える。逆に言えば、大きな目標があるので、ツールには全くこだわっていない」

企業が掲げる「大義」に合致し、かつその企業の行動が信頼に足るものであれば、彼らは喜んで企業と協働します。さらに、その強い意志と柔軟性を企業の社員にも注入してくれます。NGO・NPOや社会起業家と協働する意義は、大変大きいと考えます。

長くなってしまいました。続きは次回。



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2016年7月16日土曜日

CSV(Creating Shared Value)って何なの?(その⑤)

引き続き「CSVって何の事?」っちゅう話です。

繰り返しますが、CSVとは、
『企業がその本業を通じ、社会課題に貢献しながらしっかりと経済的利益も得て、社会価値と経済価値を共創する』
ことであり、
『自社を差別化して収益を最大化するための、競争のための経営戦略』
のことです。

前回は、ポーター教授が何故CSVの目的を『利益の最大化』とするのか、その理由について社会側の視点から整理してみました。つまりは、社会課題の解決のためには現実問題として時間と資金が必要だ、ということです。

では一方で、CSVに取り組む企業側のメリットは何でしょうか?いくつか考えられます。

まず大きいのは、
『社会課題への貢献を掲げることが、企業活動の大義名分となり、顧客をひきつけるストーリーとなって、自社のファンをつくる』
ということです。

例えば、企業の成長戦略と社会課題の融合について効果的な情報発信をしている例が、世界最大級の消費材メーカーであるユ二リーバです。
https://www.unilever.co.jp/sustainable-living/

彼らは「ユ二リーバ・サステナブル・リビング・プラン」として、「環境負荷を減らし、社会に貢献しながら、ビジネスを成長させる」というビジョンを明確に掲げています。「社会課題への貢献で自社の成長も加速させる」と明確にうたっています。

Unileverホームページより











Webページを見て頂ければよく分かりますが、彼らは具体的な実績まで細かく開示しています。こうした透明性は、企業の本気度を社会に対して伝えるとともに、企業に対する信頼感の醸成にもつながります。つまりは「ファンをつくる」ということです。ファンのいる企業は強いです。

このプランに基づき、彼らは例えば
・「インドの農村部における女性の自立支援」と「未開拓な市場へのアクセス」
・「生態系破壊を抑止するパーム油の調達」と「認証規準策定による調達の優位性獲得」
といった困難な両立に取り組んでいます。

一方で、こうした活動の大前提には、自社事業目的の位置づけの大きな変革が必要となります。ユ二リーバは、元は「石鹸屋」です。しかし、現在の彼らの事業の目的は「石鹸を売ること」ではなく、「人々の暮らしを豊かにする」ことです。

こうした自社の事業目的の変革は、他社でもみられます。例えば、
・ネスレは「食品」ではなく、いまや「栄養」を販売している。
・ナイキは「靴」ではなく、いまや「健康」を販売している。
こうした例は他にもあります。そしてこうした変革は、ファンの数を大きく拡大します。

「自社が販売している商品とは、一体何なのか?」
「自社の事業目的とは、一体何なのか?」

こうした問いに対し、先入観を取り除いたまっさらな頭で、かつ社会視点で改めて考えてみる必要が、いまやあらゆる企業にあるのではないでしょうか?

改めてじっくり考えてみましょう













長くなってしまいました。続きは次回。


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2016年7月9日土曜日

CSV(Creating Shared Value)って何なの?(その④)

引き続き、「CSVって一体何の事?」っちゅう話です。

CSVとは、
『企業がその本業を通じ、社会課題に貢献しながらしっかりと経済的利益も得て、社会価値と経済価値を共創する』
ことであり、
『自社を差別化して収益を最大化するための、競争のための経営戦略』
のことです。

そうです。ポーター教授の言うCSVの胆は、『利益の最大化を目的とした競争戦略』であり、『経営レベルの戦略』である、というところです。では、何故彼はそこまで『高い利益率』にこだわるのでしょうか?

それは、『資本主義において、企業は富を生み出し、それを増殖することのできる唯一の存在である』からです。

多くのNGOやNPOが活動しているにも係らず、社会課題は解決されていません。それどころかむしろ、課題の数は増えてさえいるかもしれません。何故でしょうか?ポーター教授は「彼らは誰かが創出した価値を正しく分配することはできても、価値そのものを生むことはできないから」だと言います。

では、政府の力はどうでしょうか?特に日本では、社会課題を解決するのは政府の役割である、と基本的に信じられています。しかし、世界中の多くの政府は債務に苦しんでいます。肝心の「価値を正しく分配する」という役割を果たすことすら、(日本に限らず)今の政府には厳しい状況です。

社会課題を解決するには、時間と資金が必要です。極めて現実的な話です。つまりは「新たに価値を創造する力なくして、社会課題の本質的な解決ははかれない」ということです。
出典:https://www.greenbiz.com/blog
/2014/06/20/6-steps-implement-csv-your-company













そのために、「儲けが出たときに社会貢献する」といったような消極的スタンスではなく、企業は「社会的な課題のなかに次の事業機会をみつける」という積極的スタンスを持つことが必要だということです。

ポーター教授は、そのための3つの手段(分類)を提唱しています。それが前々回紹介した
① 次世代の製品・サービスの創造
② バリューチェーン全体の生産性の改善
③ 地域生態系の構築
です。でも、「これって結局のところ "事業に係る全て" だよね?」という話もしました。でも、それでいいのです。つまりは、「企業は必ず、本業のどこかで社会課題と結びついている」ということです。

つまりは、
『どんな課題でもビジネスと繋がっていて、ビジネスで解決が出来る!!』
ということです。

何だか話が、社会側のメリットばかりの強調になってきました。次回は、企業側のメリットについて改めて整理してみようと思います。

出典 http://www.gettyimages.co.jp















ちなみに、今世界が抱える社会課題については、以前にもこのブログで紹介したとおり「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」として、国連が纏めてくれています。しかも、その課題を企業がどのように活用するかの指針まで作成してくれています。興味がある方は、以下をどうぞ。
http://ungcjn.org/gc/pdf/SDG_COMPASS_Jpn.pdf


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2016年7月2日土曜日

CSV(Creating Shared Value)って何なの?(その③)

前回、前々回と「CSVって最近良く耳にするけど、これって一体何の事?」という趣旨で書いてきました。

CSVとは、
『企業がその本業を通じ、社会課題に貢献しながらしっかりと経済的利益も得て、社会価値と経済価値を共創する』
ことであり、
『自社を差別化して収益を最大化するための、競争のための経営戦略』
のことです。

さらに、CSVを実現するための手段(分類)としてポーター教授が提唱しているのが以下の3つです。
① 次世代の製品・サービスの創造
② バリューチェーン全体の生産性の改善
③ 地域生態系の構築
しかし、結局のところこれらを足すと「事業に係る全て」となるので、「これらにこだわる意味は、な〜んにも無いのでは?」という話をしました。

何よりもこのCSVの胆は、『利益の最大化を目的とした競争戦略』であり、『経営レベルの戦略』である、というところです。


一方で、日本企業の経営者の方は良くおっしゃいます。
『日本には、近江商人の「三方よし」の考え方が古くから根付いている』
『我が社は今も、社会の役に立つ製品を開発・販売している』
『CSVと言うけれど、今うちがやっていることが既にCSVだよ。ハッハッハ。』

http://biglife21.com/column/7915/













しかし、ポーター教授は、この理屈に真っ向から反論されているそうです。
『十分な経済価値(利益率)をあげている日本企業が、一体どれだけあるというのか?』
『社会価値は高くても経済価値が出せないのなら、それはCSRにすぎない』
『高い利益率を維持しながら社会に対してもインパクトのある貢献をすることは生易しいことではない。しかし、茨の道だからこそ、差別化された強みとなり、競争優位につながる』

あくまで『利益』であり『競争優位』なのです。そりゃそうですよね、M.ポーター教授はそもそも『競争戦略』の大家ですから。この軸をずらす訳にはいきません。

競争の戦略
↑ 診断士の方なら(恐らく)読んだことがある高くて重い一冊。私も持っていますが、もう一度読んでみようとは思えません......。

では、ポーター教授の考える『利益率』とは具体的にはどのレベルでしょうか?彼はそれを「売上高営業利益率15%、ROE15%」と語っています。

例えばトヨタさんのROEは13.6%です。日本企業としては相当高いものの、15%には達していません。他にも、パナソニックさん10.95%、富士通さん6.30%、伊藤忠商事さん12.25%、三菱UFJフィナンシャル・グループ6.49%、アサヒグループホールディングス7.07%、セブン&アイ・ホールディングス4.94%、等々。15%のハードルを超えている企業はなかなか見当たりません。

しかし一方で、ROEは意図的に上昇させることもできます。例えば、自社株買いで自己資本を小さくすれば、ROEは高くなります。それに業態の事業特性によっても、当然ながら大きな差がつきます。ポーター教授も当然ながら、そんなことは百も承知のうえで言っているのだと思います。

では、何故彼が高い利益率にこだわるのか?長くなったので、そこは次回に。


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