2016年12月3日土曜日

ビジネスに求められる現代奴隷への対応

前回、日本における外国人労働者の労働搾取の問題に対する海外の人権NGO/NPOの懸念について書きました。

企業のサプライチェーン上の労働問題は、現在、グローバルな課題として大きな注目を集めています。例えば英国では、「Modern Slavery Act(現代奴隷法)」が昨年策定されました。奴隷と聞いて、普通の日本人は恐らく、昔教科書で目にしたこんなイメージを思い浮かべることと思います。













そして思います。「はるか昔の話でしょ」と。しかし、強制労働や児童労働は、現代でも途上国を中心に存在しています。あるオーストラリアの人権団体が今年発表した報告書に基づけば、世界で「現代の奴隷」状態にある人の数は約4,600万人だそうです。そして、その2/3はアジア太平洋地域で抱えているとか。

この数字の信憑性は、正直私も分かりません。奴隷の定義自体、明確な訳でも無いと思いますので。しかし、奴隷状態にある方が今も世界中に多くいることは確かなようです。

さらに言えば、国連の推計では現在、世界中で約250万人が人身売買されているそうです。人身売買は一大ビジネスとなっており、ある推計では、その市場規模は全世界で年間数十億ドル規模、人身売買後の労働搾取による利益まで含めると300億ドル以上の規模にのぼるそうです。実際に、アメリカでも人身売買は大きな問題となっており、啓発・防止のためにこんなポスターも空港に貼られているそうです。


























ここで押さえておかなければならないことは、人権問題はいま世界中で大きな問題になっている、ということです。人権問題に対応する義務は国だけではなく、企業に対しても課され始めています。さらに企業は、自社内だけでなく、サプライチェーン上の人権問題への目配りも求められます。それが英国の「現代奴隷法」であり、米国カリフォルニア州の「サプラチェーン透明法」なのです。また、同様の法律がまもなくフランスでも制定されるようです。

人がいるところには必ず人権が存在します。人権問題への対応は、企業にとって、今後より高いレベルで求められることはあっても、その逆はないでしょう。つまり、企業にとって人権問題への対応は、「避けられない道」だということです。


では、これはグローバル企業だけに関係する話でしょうか?

直接的にはそうですが、間接的にはそうではありません。現在、多くのグローバル企業は、投資家やNGO/NPO、欧州の取引先などからの強いプレッシャーを受けています。人権への対応に係る調査票を受け取ったり、さらには潜入調査までされた企業も実際にあるようです。

先ほども書いた通り、グローバル企業は、自社のサプライチェーンにも適切な影響力を行使することを求められます。つまりは、取引先や下請け工場のしていることでも、もし何らかの公正でない事象があれば、それは彼らのブランドを大きく傷つけます。良くない情報は、SNS等を通じて一瞬で拡散されてしまいます。例えば昨年、電子機器に使用されるコバルトの購入を通じ、児童労働に関与しているとしてアップルやサムスンも非難を浴びました。
























グローバルに活動する大企業は今後、サプライチェーン上の人権に係る実態を調査し、事態を改善するために影響力を行使することを求められます。このことを中小企業は、十分に認識しておく必要があります。公正でない行動をとっている企業、行動を改めない企業は今後、重要な取引先を失っていくことでしょう。そしてこの風潮は今後、益々強くなることが確実です。

しかし、ここでこんなことを言う方もおられるでしょう。
それって海外の話でしょ?うちは日本で操業している企業だし、関係ないでしょ?

十分関係あります。先のオーストラリアの人権団体の調査では、日本は29万人の奴隷を抱えているとされています。堂々の25位にランクされています。何故でしょう?理由の一つは、今までこのブログでも書いてきていることです。そこはまた次回。


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2016年11月20日日曜日

東京オリンピックを控えていまそこにある未来

前回までに、事例をあげ、以下のロジックについて説明をしてきました。ここで再度整理をしておきます。

① 少子高齢化という課題には、日本が、他国に先んじて直面している。労働力の不足は表面化してきており、こうした事実は世界でも有名である。

② 日本における「外国人労働者の問題」は、既に世界でも注目を集めている。複数の媒体を通じ、技能実習制度の運用実態が「現代版の奴隷制度」として紹介されている。

③ オリンピックやワールドカップといったメガスポーツイベントでは、今迄も開催国や開催国のスポンサー企業が、NGOやNPOの攻撃にあってきた。特に最近の大会では、人権課題に焦点があてられている。そうした状況を受け、2014年に国際オリンピック委員会(IOC)は、開催都市契約に差別禁止条項を追加することも決定している。
International Olympic Committee (IOC) President Thomas Bach © 2014 Reuters













④ ワールドカップを控えたカタールの建設現場における労働者の死亡事故が、世界的にも注目を集めている。そうした背景もあるなか、既に労働力が不足している日本において開催される東京オリンピックで、建設業等の労働現場に問題が生じるのではないか、という危惧が世界でなされている。

⑤ 建設業を中心に人材不足に陥ることは明らかであり、そうした状況も受け、日本政府は外国人労働者の受け入れ拡大方針を打ち出した。

ここで補足です。例えば、リクルートワークス研究所さんの調査では、東京オリンピックに絡む建設業における人材ニーズは、33.5万人に達すると予想されています。
図表 東京2020オリンピックがもたらす産業別人材ニーズ
出典:http://www.recruit.jp/news_data/release/2014/0417_7550.html


















図表 産業別人材ニーズ時系列シミュレーション(単位:人)
http://www.recruit.jp/news_data/release/2014/0417_7550.html















一方で、建設業は重層下請構造や現場依存の不十分な人材育成体制などもあり、現在の時点で既に、構造的な人材不足に喘いでいると言われています。さらには、非合法に就労している外国人も既に、かなりの数流れ込んでいると言われています。












そうした状況で生じるさらなる人材ニーズに対応すべく、日本政府が外国人労働者受け入れ拡大方針を出した訳です。しかし、外国人の人材市場をいくらか拡大したところで、まずは16.7万人が不足するサービス業のほうに人が流れるのではないでしょうか?

そうなると建設業では何が起こるか?普通に考えて想定されるシナリオは以下のとおりです。
 (1) 非合法な人材調達手段により、人材を調達する。
 (2) 労働時間を拡大する(その分の手当が支払われるかは極めて怪しい)。
この2つが合わさると、既に存在する「外国人労働者の問題」の更なる深刻化、という未来図が浮かび上がってきます。

本来、こうした問題には政府がしっかりと対応すべきです。しかし、既に指摘されている技能実習制度の問題に対しても国は、監視という名目で役に立たない天下り先をさらに一つ増やしただけと言われています。正直、あまり期待出来ません。

⑥ こうした状況で海外の人権NGO/NPOは、日本における外国人労働者の搾取問題への懸念を益々強め、スポンサー企業を中心に監視の目を強めている。

こうしたロジックにより、人権NGO/NPOは既に活動を展開しています。日本の大企業(特にスポンサー企業)にとっては大きなリスクであり、人権課題への対応を急ぐ必要があります。

さらには、英国で昨年制定され、サプライチェーン上の強制労働や児童労働の問題に対応することを求めた「Modern Slavery Act 2015(英国現代奴隷法)」、さらには紛争鉱物に対する透明性を求めた米国の「ドット・フランク法」などにより、大企業は否応なく対応を求められてきています。
http://sustainablejapan.jp/quickesg/2015/11/11/forced-labor/19597















上記のような法律が適用されるのは、英国や米国で操業している大企業に限られます。しかし、こうした法律制定の動きは既に、世界中に広がってきています。つまりは、グローバルに活動する企業にはもはや「対応するしか道が無い」ということです。そして、そのためには、中小企業にも必然的に対応が求められます。その話はまた次回。

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2016年10月29日土曜日

日本の労働市場を巡るいまそこにある未来

前回までに、以下のことについて紹介してきました。

・メガスポーツイベントでは、開催国やスポンサー企業の人権侵害事例が攻撃を受ける。
・日本における海外からの技能実習生や留学生の労働実態が、世界で問題視されている。

今迄は、この2つの問題が結びつくことはありませんでした。しかし、これが2020年オリンピック・パラリンピック東京大会で結びつくこととなります。
https://tokyo2020.jp/jp/games/emblem/













我が国の労働力人口がどんどん減少していることは、世界でも有名な事実です。

15〜64歳の生産年齢人口(下図の黄緑色)は、2013年時点で8,000万人を切っており、2060年には4,418万人まで減少することが予想されています。

(出典)2010年までは国勢調査、2013年は人口推計12月1日確定値、2015年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果






















既に、製造や小売りの現場では、外国人の労働者が多く働いています。政府は先進技術(ロボット等)の導入や女性の就労促進を大々的に喧伝していますが、実際に日本の現場を支えるのは外国人労働者になりつつある実態があります。

厚生労働省のデータでは、平成27年10月時点での外国人労働者数は、約91万人となっています。前年比15.3%増で、その数は年々増えています。また、これは事業主が届出を実施している人数なので、当然ながら、多くいると言われる不法滞在者はここには含まれていません。

前回紹介したように、この外国人労働者の労働実態の一部が、「現代版の奴隷制度」として海外で紹介されてしまいました。そこに先般、安倍政権が、外国人の「単純労働者」の受け入れ容認方針を示しました。ここで言う「単純労働者」とは、建設作業員などを想定しているようです。

ここで、最初の2つの問題が、海外の国際人権NGO/NPOの頭の中で、結びついてきます。


少子高齢化による労働力不足で、日本は外国人労働者を多く受け入れ始めている。

しかし、日本における外国人の労働実態の一部は、奴隷状態。

そこに東京オリンピック開催が決定し、建設現場等での労働需要が生じる。

必要性に駆られ、日本政府は外国人労働者の受け入れ拡大方針を決定。

日本における外国人労働者の搾取拡大を益々懸念。

こんなロジックになります。つまり、日本企業は既に、海外の人権NGO/NPOの厳しい監視にさらされ始めている、ということです。もちろん直接の攻撃の標的となるのは、日本政府、そしてスポンサー企業を主とした大企業です。しかし、その影響は中小企業にも及びます。その話はまた次回。


なお、前回前々回と、カタールW杯のスポンサー企業への攻撃事例を紹介しました。韓国の現代(ヒュンダイ)自動車も攻撃されているので、そのロゴも以下に紹介します。













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2016年10月22日土曜日

オリンピックを控え人権対応が注目される日本

オリンピックと難民の話から始め、

アジアの難民問題

人権とは、そもそも?

ビジネスと人権のつながり

人権問題で攻撃された日本企業

日本における外国人労働者の労働環境の問題

メガスポーツイベントと人権侵害

という流れで前回まで話をしてきました。メガスポーツイベントから話が始まり、メガスポーツイベントにまた戻ってきて、丁度一周した感じです。やはり、2020年東京オリンピック・パラリンピックは日本国と日本企業にとって大きなチャンスであると同時に、大きなリスクでもあるようです。

過去のオリンピックで発生した人権課題への攻撃事例は、前回紹介しました。少し前に終了したリオ・オリンピックは、人権的には大失敗の大会だったとされています。住人の強制退去、警察による殺人、デモの禁止、深刻な環境汚染(人の生活に影響を及ぼすため、環境汚染も立派な人権侵害です)等々。

警察による殺人を非難するデモ(MARIO TAMA/GETTY IMAGES)













従って、次に控える東京大会は、国際人権NGO/NPOからの高い注目を集めています。


さらに、注目を集める別の理由が、これも前回紹介した2022年のワールドカップのカタール大会です。カタールの建設現場は、W杯史上最悪の労働環境に陥っているとされており、出稼ぎ移民労働者の死亡事故が相次いでいます。既に1,200人以上が亡くなっているとのことですが、前回のブラジルW杯での労働者の犠牲者は10名だったことと比べてみると、カタールの異常な状況が良く分かります。

スポンサー企業であるSONYも攻撃されています











こうした背景もあり、国際人権NGO/NPOは、2020年東京大会における人権対応に注視しています。そして特に注視しているポイントの一つが、外国人労働者の労働環境となります。


これまた以前に紹介したとおり、海外(特に東南アジア)からの技能実習生や留学生の日本における一部の労働実態は、欧米では以前から問題視をされており、「現代版の奴隷制度だ」として紹介されています。

米国務省の『人身取引報告書』に掲載された日本の技能実習生たちの写真













多くの先進国でも状況は同じですが、自国の若者が就きたがらないような職業に、多くの外国人が就いている実態があります。このことは、海外の国際人権NGO/NPOは当然良く知っています。一方で、日本が少子高齢化により、今後労働力不足の状況に陥って行く事実は海外でもよく知られているところです。つまりは「日本は今後益々、労働力として外国人を受け入れていく必要がある」ということです。この点は避けられない事実であり、実際に安倍政権もその方針を示しています。

しかし、受け入れ拡大の方針は示したものの、現状の環境を改善しようという意気込みは、安倍政権にはあまり無さそうです。その理由の一つは、そもそも技能実習制度自体が官僚による搾取構造のうえに成り立っているからかもしれません。こうした状況に、人権NGO/NPOは危惧を抱いているようです。そして、その危惧を助長するものこそが、2020年東京大会を控えて始まる建設需要です。

       出典:www.jpnsport.go.jp











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2016年10月15日土曜日

メガスポーツイベントと人権侵害

前回、海外のNGO/NPOが、日本で働く外国人労働者の労働実態に注目している事実について書きました。そして、その背景にある理由の一つが、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会であることも。

オリンピックやサッカーのワールドカップのような、いわゆるメガスポーツイベントに際しては、世界からの注目を集めやすいことから、NGO/NPOが様々な人権課題を大々的に攻撃してきました。

【2004年 アテネオリンピック】
国際人権NGOが中心となり、途上国の生産委託工場の一部に劣悪な労働実態があるとして、スポンサーとなっていたスポーツメーカーと国際オリンピック委員会(IOC)を相手に、状況の改善を求める大々的キャンペーンを展開。













【2008年 北京オリンピック】
オリンピック誘致の際、「人権の改善」についてIOCに誓約していたにも係らず、その後も中国政府が民主主義活動家の逮捕や少数民族の弾圧、言論統制、ネット監視等を繰り返したことに対し、世界からの非難の声が集まる。

【2012年 ロンドンオリンピック】
1989年に発生したインドのボパール事件(化学工場史上最悪の事件であり、この事件を起こしたユニオン・カーバイト社は2000年にダウ・ケミカルによって買収)と関連しているという理由で、ダウケミカルに対しスポンサーから外れるべきとの批判が世界中から集まる。










【2016年 リオデジャネイロオリンピック】
治安の改善という言い訳のもとに警察の暴力がエスカレートし、オリンピック開催が決定してから警察や治安部隊に殺害された市民は2,500人以上。怪しいと思われた市民は、警告無く、突然撃ち殺されたとか。それに限らず、リオについては様々な悪い報道がなされた。


一方のワールドカップはどうでしょう?

そもそも90年代までプロの試合で使用されるサッカーボールのほとんどは、児童労働、強制労働のもとに作られていました。10年の南アフリカ大会では、FIFAからの求めに応じ、迅速な審理で大会中の犯罪に対処する「W杯特別法廷」が設立され、違法行為をしていない者までが身柄を拘束されました。さらに、南アフリカ大会でもブラジル大会でも、最貧層は住む権利さえ奪われました。

そして現在、最も問題視されているのが22年のカタール大会です。このスタジアムの建設工事では、既に1,200人以上が亡くなったと言われています。このペースで人が亡くなれば、62人の死亡のうえに1試合が成立する、という計算になるそうです。労働者は、IDやパスポートを雇用者に取り上げられ、酷暑のなか、水を飲むことさえ許されず、奴隷状態で働かされていると言われています。












この大会の協賛企業に対する攻撃は既に行われており、こんなロゴも出回っています。



































つまりは、2020年東京オリンピックも、こうした大きな流れのなかに晒される、ということです。

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2016年10月8日土曜日

海外が注視する日本における人権課題って?

ここ数回、以下の流れでビジネスと人権(Human Rights)のつながりについて説明してきました。
・前々前回は、欧米企業のグローバルな事業と人権のつながり
・前々回は、日本企業のグローバルな事業と人権のつながり
・前回は、日本企業の日本における事業と人権のつながり

そして特に日本における人権課題として、外国人労働者の問題をあげました。前回は、実際に富士重工業がグローバルに叩かれた事例も紹介しました。どうやらこの課題には、多くの海外の人権活動家が注目をしているようです。

数ヶ月前にあるセミナーに参加した際には、海外のNGOの方が、本課題について延々2時間も問題提起をされていました。さらに先月参加したある会議でも、人権に係っている海外有識者の方が口を揃えてこの課題を指摘されていました。











前回も書きましたが、彼らは外国人労働者の雇用自体は何も問題視していません。ただ、その労働環境を問題視しています。日本人と異なる差別的待遇をし、不当な搾取を行っている構図を問題視しています。例えば、彼らが指摘する「日本にいる外国人労働者を巡る問題」とは以下のようなものです。

・本国の送り出し機関による搾取(多額な借金)
・雇い主によるパスポートや通帳の保管
・給与の中間搾取(ピンハネ)や不払い
・違法な低賃金
・違法な長時間労働
・本国で聞いていた話と違う業種での就業
・国籍による差別的待遇
・寮費等の名目での不当に高額な搾取 等々

出典:http://ootori-roudou.com/











近年、ブラック企業の問題がマスコミを騒がせました。同様に、外国人労働者に対してもこうした問題は、確かに存在するようです。しかし、今までも、こうした問題を指摘する声は少なからずありました。何故、ここにきてこうした声が高まっているのでしょうか?

最大の理由は、恐らく2020年オリンピック・パラリンピック東京大会です。

そもそも、オリンピックやワールドカップなどのメガスポーツイベントでは近年、大会に係る人権問題に光があてられてきました。「メガスポーツイベントに関する人権侵害」の問題については、国連でも議論が進められています。

http://www.csonj.org/1511seminar.html










「外国人労働者の問題」が中小企業に及ぼす影響をみていく前に、過去のメガスポーツイベントを巡って巻き起こった流れについて、次回少し振り返りたいと思います。


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2016年10月2日日曜日

中小企業のビジネスと人権(Human Rights)って関係あるの?

ここ数回、ビジネスと人権(Human Rights)の関係について記してきています。
前回は、日本企業が市民社会の攻撃を受けた事例をいくつか紹介しました。
しかし、それらは「大企業」が「海外」で攻撃を受けた事例でした。

当然ながら、疑問が浮かぶはずです。
『日本のみで事業を行っている中小企業には、こんな話関係ないよね?』
と。しかし、どうも「関係ない」とは言ってられない状況になってきているのです。

それを象徴する事例を一つ紹介します。
米国での売上が絶好調な富士重工業(スバルブランド)の事例です。
2015 ロイター/Yuka Shino













昨年7月、米国に本社を置く国際ニュース通信社ロイターが、あるレポートを公開しました。
「スバル車ブームの裏で、看過出来ない事態が生じている。同社の生産は、アジアやアフリカからの難民申請者や安い外国人労働者に支えられている」と言うのです。
http://jp.reuters.com/article/special-report-subaru-idJPKCN0Q21H220150803

これは海外の話ではありません。群馬県太田市での話です。ロイターは太田市で実際に調査を実施し、下請け企業での彼らの過酷な労働環境を世界に向けて告発したのです。
労働力不足の日本においては、日本人が就きたがらない単純労働や重労働は、外国人の労働力に頼っています。このことは、既知の事実となっていました。

しかし、ロイターが今回告発したのは、彼らのもっと過酷な環境でした。
・母国の送り出し機関からの金銭要求(多額の借金を背負っての来日)
・日本での受け入れ先(下請け企業)による給与の不当な中間搾取(ピンハネ)
・最低賃金以下の給与
・長時間の強制的な労働
・事前通告なしの即時解雇
・労働者の保険の未加入
等々です。これらの行為は「違法」です。そして「彼ら」の身分は、技能実習生や難民申請者、不法就労者や留学生(を名目とした出稼ぎ労働者)だったりします。
2015 ロイター/Yuka Shino













本レポートでは、国連と米国務省も日本の技能実習制度について「いまなお強制労働の状況にある」と厳しく指摘している事実を紹介しています。私も全く知らなかったのですが、どうも海外では「日本における外国人労働者の労働実態は、現代版の奴隷制度だ」との認識が広まっているようです。

一方、こうした問題に対し富士重工業は「取引先の労働環境管理は基本的に各取引先の責任で行っており、当社が直接的に関与することはない」とコメントしています。その通りです。日本企業に多い型通りの教科書的回答です。しかし、このコメントは、昨今の人権課題におけるグローバルな常識では落第点となるようです。

前回までに、取引先等における人権侵害で企業が攻撃を受け、ブランドを大きく毀損させた実例を紹介してきました。これらの企業は国際社会から、適切な影響力を取引先に対し行使することを強く求められました。翻って今回のような事例では、下請け企業に対する富士重工業の影響力は巨大なものです。そしてこうした影響力には、当然ながら「責任も伴う」というのが現在のグローバルな常識となります。

間違えてはいけないのは、外国人を雇うこと自体に問題がある訳ではありません。しかし、最低限、法に沿った適切な労働運用がなされる必要がある、ということです。労働力不足を理由に法違反を看過することはもはや許されず、これはもはや「国内問題」と片付けられない注目度を世界で集め始めています。もちろんこの問題の最大の責任を有するのは「国」です。しかし、富士重工業にも、影響力に応じた責任は負う事が求められます。責任とはつまり、取引先に是正を強く促すことであり、それでも改善を行わない場合には取引関係の打ち切りも覚悟する、ということです。


中小企業を巡る人権リスクが少しずつ見えてきました。「日本における外国人労働者の労働実態」については、海外の人権NGOなどが、今後益々注視していくことを表明しています。そして、それには理由があります。そこらへんはまた次回。


なお、本課題を知ってから、少し勉強してみようと思いこの本を読んでみました。理解を深める上で役に立つかと思います。技能実習生よりも悲惨な留学生の実態、そしてそれを是正するどころか食い物にしている政府の天下り機関の実態等々、赤裸々に綴られています。

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2016年9月24日土曜日

日本企業のビジネスとHuman Rightsって関係あるの?

前回、ビジネスと人権のつながりについて書きました。
グローバルな大企業を中心に、人権尊重への意識は確実に高まってきています。

その契機となった企業の「苦い」経験として「NIKEに対する不買運動」、そして「ダッカのビル崩落事故」を紹介しました。一方で、近年、日本企業もこの種の「苦い」経験をしてきています。


有名な事例では、2011年に日立製作所が経験した事例があります。日立の部品調達先企業のマレーシア工場で、ミャンマー人移民労働者が処遇を巡って工場側とトラブルとなり、労働者を支援する人権活動家とこの調達先企業との間で訴訟が起きました。それを契機に世界の人権活動家やNGOが激しい攻撃を展開し、矛先は調達元である日立にも向けられました。世界中の日立の支社に抗議メールが殺到し、デモ隊までが現れました。


2012年に王子製紙が経験した事例は、少し変わっています。王子製紙は、中国江蘇省の工場において排水を海に流すための配水管の設置工事を計画し、当局からの許可まで取得していました。しかし、生活環境が脅かされることを危惧する市民の間に反発が広がり、大規模なデモに発展しました。これは、地元住民の「水資源へのアクセス権」という人権上の課題に直面した事例となります。

江蘇省でのデモ(共同)















さらに昨年は、ユニクロなどを傘下に持つファーストリテイリングが攻撃を受けました。香港を拠点とするNGOと国際人権NGOが、「ユニクロ中国委託先工場の過酷労働に関する調査報告所」を公表しました。両団体は、下請け工場2社への潜入調査等を実施し、以下の問題を指摘しました。
・違法な長時間労働と低い基本給
・作業場全体に溢れた排水、40℃の室温、換気の設備がない中での化学物質の使用など、リスクが高く危険な労働環境
・厳しい管理と罰金制度
・労働者が苦情を申し立てるシステムがない

汗だくで作業を行う労働者














但し、さすがの柳井社長。両NGOとの会談を設定するとともに、速やかに社長会見も開き、工場への改善指示も行い、さらには監査対応も強化させています。迅速な対応と透明性の確保、リスク管理の要諦をしっかりと押さえられています。




市民社会の攻撃の矛先は、確実に日本企業にも向いてきています。委託先が行った人権侵害、あるいは政府が承認した事例であっても、企業はその責任を問われ、対応を誤れば社会から猛烈な攻撃を受ける可能性がある、ということです。

一方で、ここであげた3つの事例は、いずれも海外で発生した事例でした。「うちは日本国内だけで創業している中小企業だから、関係ないや」と思われるかもしれません。しかし、東京2020オリンピック・パラリンピックを控え、グローバルな人権NGOの目は、確実に日本国内にも向いてきています。そのことが明らかになった事例を次回は紹介したいと思います。


ちなみに、先週ある方が「Human Rightsを人権と素直に訳してしまうから、日本では誤解を生むのかもね」と言われました。要は、部落問題やハラスメントなどの限られた事例に結びつけられてしまう、ということです。しかし、以前にも紹介しましたがHuman Rightsとは「人が人らしく尊厳を持って生きていくための不可侵の権利」のことです。もっともっと大きな枠で考える必要があります。従って、本ブログでも今後は、Human Rightsという言葉をそのまま使っていきたいと思います。














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2016年9月17日土曜日

ビジネスと人権って関係あるの?

前回、「人権って何だっけ?」という話をしました。
さらに企業が、人権尊重に対する存在感の発揮を求められていることも書きました。

・財政的に疲弊している国家の力は、益々弱まっています
・国家自体が、そもそも人権を侵害している例があります
・企業のサプライチェーンは、もはや国という枠を跨いでいます
・SNSが発達して市民の力も増大し、自社の商品やサービスに係る評判はすぐに広まります

等々。こうした背景もあり、グローバルな大企業を中心に、人権尊重への意識は確実に高まってきています。しかしその裏には、企業側の「苦い経験」があったことも事実です。


例えば、有名な例でいえば「NIKE」です。

1997年に、NIKEが委託するインドネシアやベトナム等の工場において、低賃金労働や児童労働、強制労働が発覚しました。NGOの批判に対してNIKEは当初真摯に対応しなかったため、世界的な不買運動が起こりました。

ロイター通信社














日本ではほとんど報道されませんでしたが、この事件は、グローバルな「ビジネスと人権」の潮目を変えた極めて重要な事件です。下請けによる侵害については委託元にも責任あり、と社会は普通に認識したのです。

ついでに言えば、このときの不買運動で経営的に苦境に陥ったNIKEを救ったものこそ、当時空前のNIKEブームに沸き能天気にNIKEのシューズを爆買いしていた日本の消費者だった、とも言われています.....


もう一つ、グローバルな潮目を変えたと言われる事件が、2013年にバングラデシュの首都ダッカで発生したビル崩落事故です。この事故は、死者1,100名、負傷者2,500名の大惨事でした。













この事故が何故、大企業と関係があるのでしょうか?実は、被害を受けた労働者の多くが働いていたのが、ベネトン等のグローバル・アパレル企業の下請け縫製工場だったからです。下請け業者は、違法な増築を繰り返し、壁の亀裂に係る従業員の再三の指摘も無視していました。

この悲惨な事故により、グローバルなサプライチェーン上での人権侵害に対する大企業(委託元)側の責任について、改めて注目が集まりました。つまり、先進国の多くの大企業は途上国の貧しい労働者を不当に搾取している、という構図が広まりました。


ビジネスと人権のつながりについては、少し理解頂けたかと思います。
でも、「こうした事件は海外企業の話でしょ?日本企業には関係ないでしょ?」
きっと、そう思われる方も多いと思います。

しかし、日本企業も他人事ではありません。むしろ、2020東京オリンピック・パラリンピックを控え、「日本と人権」は、世界でも最注目のテーマとなってきています。このことは明らかですし、政府も十分に認識をしています(ただ、認識をしているだけで、全く具体的には動いていないようですが...)。

「人権問題と中小企業にどんな繋がりがあるのか?」の話の前に、欧米企業ではなく、日本の大企業が叩かれた昨今の事例についても、次回少し紹介したいと思います。












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