2016年10月29日土曜日

日本の労働市場を巡るいまそこにある未来

前回までに、以下のことについて紹介してきました。

・メガスポーツイベントでは、開催国やスポンサー企業の人権侵害事例が攻撃を受ける。
・日本における海外からの技能実習生や留学生の労働実態が、世界で問題視されている。

今迄は、この2つの問題が結びつくことはありませんでした。しかし、これが2020年オリンピック・パラリンピック東京大会で結びつくこととなります。
https://tokyo2020.jp/jp/games/emblem/













我が国の労働力人口がどんどん減少していることは、世界でも有名な事実です。

15〜64歳の生産年齢人口(下図の黄緑色)は、2013年時点で8,000万人を切っており、2060年には4,418万人まで減少することが予想されています。

(出典)2010年までは国勢調査、2013年は人口推計12月1日確定値、2015年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果






















既に、製造や小売りの現場では、外国人の労働者が多く働いています。政府は先進技術(ロボット等)の導入や女性の就労促進を大々的に喧伝していますが、実際に日本の現場を支えるのは外国人労働者になりつつある実態があります。

厚生労働省のデータでは、平成27年10月時点での外国人労働者数は、約91万人となっています。前年比15.3%増で、その数は年々増えています。また、これは事業主が届出を実施している人数なので、当然ながら、多くいると言われる不法滞在者はここには含まれていません。

前回紹介したように、この外国人労働者の労働実態の一部が、「現代版の奴隷制度」として海外で紹介されてしまいました。そこに先般、安倍政権が、外国人の「単純労働者」の受け入れ容認方針を示しました。ここで言う「単純労働者」とは、建設作業員などを想定しているようです。

ここで、最初の2つの問題が、海外の国際人権NGO/NPOの頭の中で、結びついてきます。


少子高齢化による労働力不足で、日本は外国人労働者を多く受け入れ始めている。

しかし、日本における外国人の労働実態の一部は、奴隷状態。

そこに東京オリンピック開催が決定し、建設現場等での労働需要が生じる。

必要性に駆られ、日本政府は外国人労働者の受け入れ拡大方針を決定。

日本における外国人労働者の搾取拡大を益々懸念。

こんなロジックになります。つまり、日本企業は既に、海外の人権NGO/NPOの厳しい監視にさらされ始めている、ということです。もちろん直接の攻撃の標的となるのは、日本政府、そしてスポンサー企業を主とした大企業です。しかし、その影響は中小企業にも及びます。その話はまた次回。


なお、前回前々回と、カタールW杯のスポンサー企業への攻撃事例を紹介しました。韓国の現代(ヒュンダイ)自動車も攻撃されているので、そのロゴも以下に紹介します。













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2016年10月22日土曜日

オリンピックを控え人権対応が注目される日本

オリンピックと難民の話から始め、

アジアの難民問題

人権とは、そもそも?

ビジネスと人権のつながり

人権問題で攻撃された日本企業

日本における外国人労働者の労働環境の問題

メガスポーツイベントと人権侵害

という流れで前回まで話をしてきました。メガスポーツイベントから話が始まり、メガスポーツイベントにまた戻ってきて、丁度一周した感じです。やはり、2020年東京オリンピック・パラリンピックは日本国と日本企業にとって大きなチャンスであると同時に、大きなリスクでもあるようです。

過去のオリンピックで発生した人権課題への攻撃事例は、前回紹介しました。少し前に終了したリオ・オリンピックは、人権的には大失敗の大会だったとされています。住人の強制退去、警察による殺人、デモの禁止、深刻な環境汚染(人の生活に影響を及ぼすため、環境汚染も立派な人権侵害です)等々。

警察による殺人を非難するデモ(MARIO TAMA/GETTY IMAGES)













従って、次に控える東京大会は、国際人権NGO/NPOからの高い注目を集めています。


さらに、注目を集める別の理由が、これも前回紹介した2022年のワールドカップのカタール大会です。カタールの建設現場は、W杯史上最悪の労働環境に陥っているとされており、出稼ぎ移民労働者の死亡事故が相次いでいます。既に1,200人以上が亡くなっているとのことですが、前回のブラジルW杯での労働者の犠牲者は10名だったことと比べてみると、カタールの異常な状況が良く分かります。

スポンサー企業であるSONYも攻撃されています











こうした背景もあり、国際人権NGO/NPOは、2020年東京大会における人権対応に注視しています。そして特に注視しているポイントの一つが、外国人労働者の労働環境となります。


これまた以前に紹介したとおり、海外(特に東南アジア)からの技能実習生や留学生の日本における一部の労働実態は、欧米では以前から問題視をされており、「現代版の奴隷制度だ」として紹介されています。

米国務省の『人身取引報告書』に掲載された日本の技能実習生たちの写真













多くの先進国でも状況は同じですが、自国の若者が就きたがらないような職業に、多くの外国人が就いている実態があります。このことは、海外の国際人権NGO/NPOは当然良く知っています。一方で、日本が少子高齢化により、今後労働力不足の状況に陥って行く事実は海外でもよく知られているところです。つまりは「日本は今後益々、労働力として外国人を受け入れていく必要がある」ということです。この点は避けられない事実であり、実際に安倍政権もその方針を示しています。

しかし、受け入れ拡大の方針は示したものの、現状の環境を改善しようという意気込みは、安倍政権にはあまり無さそうです。その理由の一つは、そもそも技能実習制度自体が官僚による搾取構造のうえに成り立っているからかもしれません。こうした状況に、人権NGO/NPOは危惧を抱いているようです。そして、その危惧を助長するものこそが、2020年東京大会を控えて始まる建設需要です。

       出典:www.jpnsport.go.jp











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2016年10月15日土曜日

メガスポーツイベントと人権侵害

前回、海外のNGO/NPOが、日本で働く外国人労働者の労働実態に注目している事実について書きました。そして、その背景にある理由の一つが、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会であることも。

オリンピックやサッカーのワールドカップのような、いわゆるメガスポーツイベントに際しては、世界からの注目を集めやすいことから、NGO/NPOが様々な人権課題を大々的に攻撃してきました。

【2004年 アテネオリンピック】
国際人権NGOが中心となり、途上国の生産委託工場の一部に劣悪な労働実態があるとして、スポンサーとなっていたスポーツメーカーと国際オリンピック委員会(IOC)を相手に、状況の改善を求める大々的キャンペーンを展開。













【2008年 北京オリンピック】
オリンピック誘致の際、「人権の改善」についてIOCに誓約していたにも係らず、その後も中国政府が民主主義活動家の逮捕や少数民族の弾圧、言論統制、ネット監視等を繰り返したことに対し、世界からの非難の声が集まる。

【2012年 ロンドンオリンピック】
1989年に発生したインドのボパール事件(化学工場史上最悪の事件であり、この事件を起こしたユニオン・カーバイト社は2000年にダウ・ケミカルによって買収)と関連しているという理由で、ダウケミカルに対しスポンサーから外れるべきとの批判が世界中から集まる。










【2016年 リオデジャネイロオリンピック】
治安の改善という言い訳のもとに警察の暴力がエスカレートし、オリンピック開催が決定してから警察や治安部隊に殺害された市民は2,500人以上。怪しいと思われた市民は、警告無く、突然撃ち殺されたとか。それに限らず、リオについては様々な悪い報道がなされた。


一方のワールドカップはどうでしょう?

そもそも90年代までプロの試合で使用されるサッカーボールのほとんどは、児童労働、強制労働のもとに作られていました。10年の南アフリカ大会では、FIFAからの求めに応じ、迅速な審理で大会中の犯罪に対処する「W杯特別法廷」が設立され、違法行為をしていない者までが身柄を拘束されました。さらに、南アフリカ大会でもブラジル大会でも、最貧層は住む権利さえ奪われました。

そして現在、最も問題視されているのが22年のカタール大会です。このスタジアムの建設工事では、既に1,200人以上が亡くなったと言われています。このペースで人が亡くなれば、62人の死亡のうえに1試合が成立する、という計算になるそうです。労働者は、IDやパスポートを雇用者に取り上げられ、酷暑のなか、水を飲むことさえ許されず、奴隷状態で働かされていると言われています。












この大会の協賛企業に対する攻撃は既に行われており、こんなロゴも出回っています。



































つまりは、2020年東京オリンピックも、こうした大きな流れのなかに晒される、ということです。

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2016年10月8日土曜日

海外が注視する日本における人権課題って?

ここ数回、以下の流れでビジネスと人権(Human Rights)のつながりについて説明してきました。
・前々前回は、欧米企業のグローバルな事業と人権のつながり
・前々回は、日本企業のグローバルな事業と人権のつながり
・前回は、日本企業の日本における事業と人権のつながり

そして特に日本における人権課題として、外国人労働者の問題をあげました。前回は、実際に富士重工業がグローバルに叩かれた事例も紹介しました。どうやらこの課題には、多くの海外の人権活動家が注目をしているようです。

数ヶ月前にあるセミナーに参加した際には、海外のNGOの方が、本課題について延々2時間も問題提起をされていました。さらに先月参加したある会議でも、人権に係っている海外有識者の方が口を揃えてこの課題を指摘されていました。











前回も書きましたが、彼らは外国人労働者の雇用自体は何も問題視していません。ただ、その労働環境を問題視しています。日本人と異なる差別的待遇をし、不当な搾取を行っている構図を問題視しています。例えば、彼らが指摘する「日本にいる外国人労働者を巡る問題」とは以下のようなものです。

・本国の送り出し機関による搾取(多額な借金)
・雇い主によるパスポートや通帳の保管
・給与の中間搾取(ピンハネ)や不払い
・違法な低賃金
・違法な長時間労働
・本国で聞いていた話と違う業種での就業
・国籍による差別的待遇
・寮費等の名目での不当に高額な搾取 等々

出典:http://ootori-roudou.com/











近年、ブラック企業の問題がマスコミを騒がせました。同様に、外国人労働者に対してもこうした問題は、確かに存在するようです。しかし、今までも、こうした問題を指摘する声は少なからずありました。何故、ここにきてこうした声が高まっているのでしょうか?

最大の理由は、恐らく2020年オリンピック・パラリンピック東京大会です。

そもそも、オリンピックやワールドカップなどのメガスポーツイベントでは近年、大会に係る人権問題に光があてられてきました。「メガスポーツイベントに関する人権侵害」の問題については、国連でも議論が進められています。

http://www.csonj.org/1511seminar.html










「外国人労働者の問題」が中小企業に及ぼす影響をみていく前に、過去のメガスポーツイベントを巡って巻き起こった流れについて、次回少し振り返りたいと思います。


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2016年10月2日日曜日

中小企業のビジネスと人権(Human Rights)って関係あるの?

ここ数回、ビジネスと人権(Human Rights)の関係について記してきています。
前回は、日本企業が市民社会の攻撃を受けた事例をいくつか紹介しました。
しかし、それらは「大企業」が「海外」で攻撃を受けた事例でした。

当然ながら、疑問が浮かぶはずです。
『日本のみで事業を行っている中小企業には、こんな話関係ないよね?』
と。しかし、どうも「関係ない」とは言ってられない状況になってきているのです。

それを象徴する事例を一つ紹介します。
米国での売上が絶好調な富士重工業(スバルブランド)の事例です。
2015 ロイター/Yuka Shino













昨年7月、米国に本社を置く国際ニュース通信社ロイターが、あるレポートを公開しました。
「スバル車ブームの裏で、看過出来ない事態が生じている。同社の生産は、アジアやアフリカからの難民申請者や安い外国人労働者に支えられている」と言うのです。
http://jp.reuters.com/article/special-report-subaru-idJPKCN0Q21H220150803

これは海外の話ではありません。群馬県太田市での話です。ロイターは太田市で実際に調査を実施し、下請け企業での彼らの過酷な労働環境を世界に向けて告発したのです。
労働力不足の日本においては、日本人が就きたがらない単純労働や重労働は、外国人の労働力に頼っています。このことは、既知の事実となっていました。

しかし、ロイターが今回告発したのは、彼らのもっと過酷な環境でした。
・母国の送り出し機関からの金銭要求(多額の借金を背負っての来日)
・日本での受け入れ先(下請け企業)による給与の不当な中間搾取(ピンハネ)
・最低賃金以下の給与
・長時間の強制的な労働
・事前通告なしの即時解雇
・労働者の保険の未加入
等々です。これらの行為は「違法」です。そして「彼ら」の身分は、技能実習生や難民申請者、不法就労者や留学生(を名目とした出稼ぎ労働者)だったりします。
2015 ロイター/Yuka Shino













本レポートでは、国連と米国務省も日本の技能実習制度について「いまなお強制労働の状況にある」と厳しく指摘している事実を紹介しています。私も全く知らなかったのですが、どうも海外では「日本における外国人労働者の労働実態は、現代版の奴隷制度だ」との認識が広まっているようです。

一方、こうした問題に対し富士重工業は「取引先の労働環境管理は基本的に各取引先の責任で行っており、当社が直接的に関与することはない」とコメントしています。その通りです。日本企業に多い型通りの教科書的回答です。しかし、このコメントは、昨今の人権課題におけるグローバルな常識では落第点となるようです。

前回までに、取引先等における人権侵害で企業が攻撃を受け、ブランドを大きく毀損させた実例を紹介してきました。これらの企業は国際社会から、適切な影響力を取引先に対し行使することを強く求められました。翻って今回のような事例では、下請け企業に対する富士重工業の影響力は巨大なものです。そしてこうした影響力には、当然ながら「責任も伴う」というのが現在のグローバルな常識となります。

間違えてはいけないのは、外国人を雇うこと自体に問題がある訳ではありません。しかし、最低限、法に沿った適切な労働運用がなされる必要がある、ということです。労働力不足を理由に法違反を看過することはもはや許されず、これはもはや「国内問題」と片付けられない注目度を世界で集め始めています。もちろんこの問題の最大の責任を有するのは「国」です。しかし、富士重工業にも、影響力に応じた責任は負う事が求められます。責任とはつまり、取引先に是正を強く促すことであり、それでも改善を行わない場合には取引関係の打ち切りも覚悟する、ということです。


中小企業を巡る人権リスクが少しずつ見えてきました。「日本における外国人労働者の労働実態」については、海外の人権NGOなどが、今後益々注視していくことを表明しています。そして、それには理由があります。そこらへんはまた次回。


なお、本課題を知ってから、少し勉強してみようと思いこの本を読んでみました。理解を深める上で役に立つかと思います。技能実習生よりも悲惨な留学生の実態、そしてそれを是正するどころか食い物にしている政府の天下り機関の実態等々、赤裸々に綴られています。

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