2016年9月24日土曜日

日本企業のビジネスとHuman Rightsって関係あるの?

前回、ビジネスと人権のつながりについて書きました。
グローバルな大企業を中心に、人権尊重への意識は確実に高まってきています。

その契機となった企業の「苦い」経験として「NIKEに対する不買運動」、そして「ダッカのビル崩落事故」を紹介しました。一方で、近年、日本企業もこの種の「苦い」経験をしてきています。


有名な事例では、2011年に日立製作所が経験した事例があります。日立の部品調達先企業のマレーシア工場で、ミャンマー人移民労働者が処遇を巡って工場側とトラブルとなり、労働者を支援する人権活動家とこの調達先企業との間で訴訟が起きました。それを契機に世界の人権活動家やNGOが激しい攻撃を展開し、矛先は調達元である日立にも向けられました。世界中の日立の支社に抗議メールが殺到し、デモ隊までが現れました。


2012年に王子製紙が経験した事例は、少し変わっています。王子製紙は、中国江蘇省の工場において排水を海に流すための配水管の設置工事を計画し、当局からの許可まで取得していました。しかし、生活環境が脅かされることを危惧する市民の間に反発が広がり、大規模なデモに発展しました。これは、地元住民の「水資源へのアクセス権」という人権上の課題に直面した事例となります。

江蘇省でのデモ(共同)















さらに昨年は、ユニクロなどを傘下に持つファーストリテイリングが攻撃を受けました。香港を拠点とするNGOと国際人権NGOが、「ユニクロ中国委託先工場の過酷労働に関する調査報告所」を公表しました。両団体は、下請け工場2社への潜入調査等を実施し、以下の問題を指摘しました。
・違法な長時間労働と低い基本給
・作業場全体に溢れた排水、40℃の室温、換気の設備がない中での化学物質の使用など、リスクが高く危険な労働環境
・厳しい管理と罰金制度
・労働者が苦情を申し立てるシステムがない

汗だくで作業を行う労働者














但し、さすがの柳井社長。両NGOとの会談を設定するとともに、速やかに社長会見も開き、工場への改善指示も行い、さらには監査対応も強化させています。迅速な対応と透明性の確保、リスク管理の要諦をしっかりと押さえられています。




市民社会の攻撃の矛先は、確実に日本企業にも向いてきています。委託先が行った人権侵害、あるいは政府が承認した事例であっても、企業はその責任を問われ、対応を誤れば社会から猛烈な攻撃を受ける可能性がある、ということです。

一方で、ここであげた3つの事例は、いずれも海外で発生した事例でした。「うちは日本国内だけで創業している中小企業だから、関係ないや」と思われるかもしれません。しかし、東京2020オリンピック・パラリンピックを控え、グローバルな人権NGOの目は、確実に日本国内にも向いてきています。そのことが明らかになった事例を次回は紹介したいと思います。


ちなみに、先週ある方が「Human Rightsを人権と素直に訳してしまうから、日本では誤解を生むのかもね」と言われました。要は、部落問題やハラスメントなどの限られた事例に結びつけられてしまう、ということです。しかし、以前にも紹介しましたがHuman Rightsとは「人が人らしく尊厳を持って生きていくための不可侵の権利」のことです。もっともっと大きな枠で考える必要があります。従って、本ブログでも今後は、Human Rightsという言葉をそのまま使っていきたいと思います。














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2016年9月17日土曜日

ビジネスと人権って関係あるの?

前回、「人権って何だっけ?」という話をしました。
さらに企業が、人権尊重に対する存在感の発揮を求められていることも書きました。

・財政的に疲弊している国家の力は、益々弱まっています
・国家自体が、そもそも人権を侵害している例があります
・企業のサプライチェーンは、もはや国という枠を跨いでいます
・SNSが発達して市民の力も増大し、自社の商品やサービスに係る評判はすぐに広まります

等々。こうした背景もあり、グローバルな大企業を中心に、人権尊重への意識は確実に高まってきています。しかしその裏には、企業側の「苦い経験」があったことも事実です。


例えば、有名な例でいえば「NIKE」です。

1997年に、NIKEが委託するインドネシアやベトナム等の工場において、低賃金労働や児童労働、強制労働が発覚しました。NGOの批判に対してNIKEは当初真摯に対応しなかったため、世界的な不買運動が起こりました。

ロイター通信社














日本ではほとんど報道されませんでしたが、この事件は、グローバルな「ビジネスと人権」の潮目を変えた極めて重要な事件です。下請けによる侵害については委託元にも責任あり、と社会は普通に認識したのです。

ついでに言えば、このときの不買運動で経営的に苦境に陥ったNIKEを救ったものこそ、当時空前のNIKEブームに沸き能天気にNIKEのシューズを爆買いしていた日本の消費者だった、とも言われています.....


もう一つ、グローバルな潮目を変えたと言われる事件が、2013年にバングラデシュの首都ダッカで発生したビル崩落事故です。この事故は、死者1,100名、負傷者2,500名の大惨事でした。













この事故が何故、大企業と関係があるのでしょうか?実は、被害を受けた労働者の多くが働いていたのが、ベネトン等のグローバル・アパレル企業の下請け縫製工場だったからです。下請け業者は、違法な増築を繰り返し、壁の亀裂に係る従業員の再三の指摘も無視していました。

この悲惨な事故により、グローバルなサプライチェーン上での人権侵害に対する大企業(委託元)側の責任について、改めて注目が集まりました。つまり、先進国の多くの大企業は途上国の貧しい労働者を不当に搾取している、という構図が広まりました。


ビジネスと人権のつながりについては、少し理解頂けたかと思います。
でも、「こうした事件は海外企業の話でしょ?日本企業には関係ないでしょ?」
きっと、そう思われる方も多いと思います。

しかし、日本企業も他人事ではありません。むしろ、2020東京オリンピック・パラリンピックを控え、「日本と人権」は、世界でも最注目のテーマとなってきています。このことは明らかですし、政府も十分に認識をしています(ただ、認識をしているだけで、全く具体的には動いていないようですが...)。

「人権問題と中小企業にどんな繋がりがあるのか?」の話の前に、欧米企業ではなく、日本の大企業が叩かれた昨今の事例についても、次回少し紹介したいと思います。












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2016年9月11日日曜日

そもそも人権って何なの?

前々回、前回と難民問題の話をしました。要は「人権」の話です。

では、「人権」とは一体何でしょうか?人権問題と中小企業の繋がりについて書く前に、まず「人権とは何か」について押さえておきたいと思います。

日本では、「人権=思いやり、配慮」といった解釈をする人が多いようです。会社勤めの方と話をすると、「人権=労働条件の問題やセクハラ、パワハラ」といったイメージを強く持たれているようです。しかし、世界に共通する「人権」の概念はもっともっと広いものです。

国際的な合意である「世界人権宣言(1948年採択)」では、人権を以下と定義づけています。
・人が生まれながらに持つ権利
・誰も奪い取れない権利
・普遍的な権利
(全文は、http://www.un.org/en/universal-declaration-human-rights/に掲載)















配慮ではなく、人権とはつまり「権利(human rights)」のことです。人が人らしく尊厳を持って生きていくための不可侵な権利です。そこには、国籍、性別、民族、人種、宗教、言語といったようなものは一切関係ありません。各国の法の上に、こうした要求は存在します。国が人権侵害を行っている例は、世界中にあります。しかし人権とは、国際的な要求として強く求められるものです。

最近の例で言えば、フィリピンがあります。ASEAN首脳会議での発言が物議を醸しているドゥテルテ大統領が就任してから約1ヶ月半が経ちました。彼が現在行っていることは、薬物犯罪に関わったとの疑いを持たれた市民を、その場で警察に射殺させることです。疑いがあるだけで、正当な手続きを一切経ることなく、既に何百人もの市民が殺害されています。ドゥテルテ大統領は国際社会の非難に対して「内政に干渉するな」と発言しています。しかし、これは人権の問題であり、国際社会として到底容認できるものではありません。

犠牲となった男性の葬儀で嘆き悲しむ親類の女性
©NOEL CELIS/AFP/Getty Images













先に述べた「世界人権宣言」では、20以上の様々な権利を「人権」として認めています。例えば「健康的な生活水準を保持する権利」「自由に移転及び居住する権利」「教育を受ける権利」「意見及び表現の自由に対する権利」等です。一方で、人権の概念や要求水準、世界で議論されている課題も常に深化しています。

以上が「人権」のごく簡単な説明です。

一方で、「人権」に対する責任を有するのは、これまで国家であると考えられてきました。しかし、先に述べたとおりに、国家が人権を侵害している例が多くあります。日本の隣国である中国にしろ、北朝鮮にしろ、そうです。また、国家をまたがる人権課題が多く発生してきています。さらには、財政問題等により国家の力自体もどんどん弱まってきています。

では、力を発揮すべきは、近年力を増している市民社会(NPOやNGO等)なのでしょうか?しかし、彼らにはまだ、そんな力はありません。前にこのブログでも書きましたが、彼らは富を生み出す存在ではありません。分配を行う存在です。従って、どうしても活動の規模や範囲、期間等に制約が伴います。

その結果、人権尊重における重要な存在として近年急速にクローズアップされてきているのが「企業」です。最近でこそ、グローバル企業を中心に、人権への意識が高まってきています。しかし、その過程では様々な「事件」もありました。人権問題と中小企業の繋がりを語る前に、そうした「事件(歴史)」についても次回、少し触れておきたいと思います。


ちなみに、本題と関係ありませんが、以前に当ブログで、国連で策定された「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」について紹介しました。
http://social-value-consultant.blogspot.jp/2016/06/sdgs.html
http://social-value-consultant.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

この啓発を目的として「東京ガールズコレクション」とコラボした動画が現在、公開されています。興味のある方は、ご覧になってみて下さい。




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2016年9月4日日曜日

難民問題って日本に関係あるの?

前回は、現在EUを大いに悩ませている難民問題について少し触れました。
ずっと前に当ブログで、「別に中小企業が、途上国の人権問題に貢献する必要性もありません」と書きました。
が、考えを改めました。もはや途上国の人権問題と無関係ではいられないようです。

まず、難民問題が発生しているのは欧州だけではありません。
例えば東南アジアを見ると、特に「ロヒンギャ族」の問題が言われています。













民主化が進みつつあるミャンマーですが、ロヒンギャ族には関係ありません。イスラム教徒の少数民族であるロヒンギャ族は、仏教徒の多いミャンマーでは市民権すら否定され、結婚も労働も旅行の自由すらも与えらていないそうです。迫害に耐えきれなくなったロヒンギャ族に人身売買組織が群がり、密航(脱出)を手助けしていると言われています。

しかし、その実態は悲惨です。ロクに食事も与えられず、船の中で飢え死にすれば海に捨てられます。騙されて連れていかれる先は収容所で、そこでひどい暴力を振るわれます。組織は人身売買だけでなく、ミャンマーに残る親族に身代金を要求することでも儲けています。しかもそんな実態を、収容所が存在するタイ政府の軍も警察も、賄賂を受け取ってお目こぼししていました。まさに「巨大ビジネス」です。

タイ政府も国際的な非難を浴び、取締りを強化していますが、ミャンマー政府が態度を改めない以上、この問題の根本的解決ははかられません。つまり、難民問題はアジアでも発生しているということです。


では、これが日本とどう関係あるのか?人道的な観点から、国として手を差し伸べる必要はあります。しかし、国内の中小企業には直接関係は無さそうです。ミャンマーからの貧しい難民が、飛行機に乗って日本まで移動してくる可能性は低そうです。

しかし、EUもタイも、難民が大量に押し寄せる事態を数年前に想定していた訳ではありません。一度難民の波が発生すれば、それは一気に数十万人単位に膨らむと言われています。そんな危険は、日本には無いのでしょうか?ギリシャやタイと同じように、ボートで難民が渡ってくる可能性は無いのでしょうか?

あります。北朝鮮です。

仮にこの国で政変が発生すれば、多くの政治難民が海を渡って日本に殺到します。そうした場合、難民条約に基づき、日本には難民を受け入れる義務があります。しかし、そうした人々を日本として受け入れた場合、当然教育も仕事も必要となります。市民にも企業にも協力することが求められます。他人事とは言っていられなくなります。

あくまで可能性の話です。しかし、シリアからの難民も、数年前には「ただの可能性」の話でした。しかし今や、EU存続の危機を生み出しています。


しかし、人権問題と中小企業との繋がりは、そんな可能性の話でなく、もっと直接的にもあります。そんな話を次回します。













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